和の色の名前を愛でる

日本の伝統色は多彩で、名前にも趣きがあります。先人たちは微妙な色合いを使い分け、巧みに組み合わせて、暮らしに華やぎを添えていました。季節の移ろいを見つめる視点や繊細なネーミング感覚を、日常生活やビジネスにも生かしてみませんか。

赤系の色編

夜明けの色は希望の色

昔から朝焼けの美しさは「東雲(しののめ)色」と呼ばれ、尊ばれてきました。新しい1日が始まる夜明け。暗い夜が遠のき、姿を現した朝日を浴びて赤く染まった空の色です。曙(あけぼの)色とも呼ばれています。一方、西の空に沈む夕日の表現にふさわしいのは茜(あかね)色でしょうか。アカネという植物
の根に含まれる色素が染色に利用されていました。深い赤の茜色も心に響きます。

青系の色編

藍染め工場は色の見本帳

藍色は海外でジャパンブルーとも呼ばれ、日本文化を代表する色のひとつです。伝統的な藍染め工法で染色される木綿生地は、絣(かすり)の着物などに重用されてきました。藍色は染めの回数によって色合いが異なり、濃淡に応じて違う名前で呼ばれています。もっとも濃い「留紺(とめこん)」から「納戸」、「はなだ」へと順に薄くなっていきます。「はなだ」はさらに「深(こき)はなだ」「浅(あさ)はなだ」と濃淡によって呼び分けられます。いちばん薄い色合いは「かめのぞき」で、生地を藍染めのかめの中に少しのぞく程度に軽く浸してすぐに引き上げたことから、このように名づけられたといわれています。

緑系の色編

若武者のダンディズム

日本史を彩る武将たちに通じる伝統色もあります。源平争う一ノ谷の合戦、平敦盛が「萌黄(もえぎ)匂い」のよろい姿で参戦しますが、武運つたなく16年間の生涯を終えます。萌黄は草木の若い芽が萌え出る
ような黄緑色で、匂いとは色の濃淡が変化していくデザインを表しています。戦場を疾走する色鮮やかな萌黄色には、若武者のダンディズムがあふれていました。「苗色」「若草色」「若葉色」「若竹色」「青竹色」。緑系の色には、春から初夏にかけて成長する植物の生命力を題材にしたネーミングがたくさんあります。

紫系の色編

紫は庶民の憧れ

紫は高貴な色とされ、庶民の憧れでした。江戸で人気の青みを帯びた「江戸紫」に対し、赤みのある京の紫は「京紫」。土地が変われば異なる色合いが好まれました。明るめの紫は「若紫」、ややくすんだ紫は「滅紫(けしむらさき)」。高価な染料の代用として藍や紅花の染料を合わせて作ったものは「似紫(にせむらさき)」、濃い紫と薄い紫の中間を「半色(はしたいろ)」といいます。いずれも紫色のバリエーションの一種として愛されてきました。

茶系の色編

歌舞伎役者発信の流行色

四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」といわれるほど、茶色とねずみ色は多彩。茶色には歌舞伎の名優にちなむ名前が少なくありません。「団十郎茶」は市川団十郎、「梅幸茶(ばいこうちゃ)」は尾上菊五郎、「路考茶」は瀬川菊之丞ゆかりの茶色です。江戸期には庶民の間で人気役者の舞台衣装が話題となり、その柄や色が流行しました。歌舞伎役者発信の流行色といったところでしょうか。特に流行に敏感な当時の女性たちが、ファッションとして茶色を着こなしていたことがうかがえます。