厚生労働省が調査を行った2017年度の高齢者に対する虐待は前年度比で4.2%増の1万7,078件となり、過去最多となりました。
虐待の被害者は女性が76.1%、男性は23.9%。
加害者は息子が40.3%と最も多く、次いで夫21.1%、娘17.4%と続きました。
虐待は他人事ではなく、身近な場所でも頻発しているといえるでしょう。
今回は高齢者の虐待問題について考えいきます。
主な高齢者虐待は「家庭内」・「介護施設」ともに発生!養護者からの虐待が多い理由とは?

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超高齢化社会を迎える日本では、高齢者が自分らしく、幸せに暮らせるよう介護や福祉の問題に向き合い続けています。
しかし、すべての高齢者が幸せなわけではありません。
幸せでないひとつの要因が「高齢者虐待」。
介護施設内や家庭内でも高齢者への虐待が急増しているというのです。
高齢者への虐待は、児童への虐待と少し異なり、肉体的な虐待ではありません。
精神的な虐待が多いのも特徴です。
厚生労働省では高齢者虐待を「身体的虐待」「介護・世話の放棄・放任」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つにわけています。
これだけ細分化できるほど、高齢者への虐待は横行しているのです。
厚生労働省が発表した資料によると、在宅における2017年度の擁護者による高齢者虐待は1万7,078件。
把握できているだけでこの件数なので、実際に露見していない虐待はもっと多いと言えるでしょう。
多くの高齢者が虐待に苦しんでいるのです。
高齢者への虐待を防止するためには、高齢者の暮らしを見守る社会体制づくりは欠かせません。
要介護の高齢者は自分からサインを出すのが難しく、介護施設に入所していたり、頻繁に通院する高齢者以外は、なかなか外部にそのつらさを伝えることができないのです。
また、養護者が抱える問題を解決することも必要。
「介護うつ」という言葉もある通り、毎日介護に向き合い続けるとうつ状態に陥る人も少なくありません。
だからこそ、介護うつを起因とする虐待については、介護者(養護者)へのケアも不可欠なのです。
高齢者にとっては養護者は必要不可欠な存在。
だからこそ、養護者も不幸にならないようなセーフティネットは必要です。
地域や行政の介護者に対する支援は、今後ますます求められていくことでしょう。
実際に厚生労働省がどのような虐待を受けているのかをまとめています。
「身体的虐待」(66%)、「心理的虐待」(41%)、「経済的虐待」(20%)という結果になりました。
家庭内での虐待も増加傾向にありますが、介護施設での虐待も増加傾向にあります。
介護施設での虐待被害 8割は認知症患者?一時保護なども増回傾向!事例をご紹介

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厚生労働省は3月26日、介護職員の高齢者への虐待が2017年度に510件(前年度比58件増加)あり、過去最多を更新した、と発表しました。
510件は11年連続の増加となり、被害を受けた人の8割が認知症だったといいます。
介護職員による虐待は年々増加傾向。
2017年度は2,000件に迫るほどなのだとか。
虐待を受けたと特定された高齢者854人のうち、暴力や身体拘束といった「身体的虐待」は59.8%で最も多く、次いで暴言・嫌味などの「心理的虐待」が30.6%、「介護放棄」が16.9%と続きました。
虐待の要因となったのは「教育・知識・介護技術などに関する問題」が60.1%と最多で、「職員のストレスや感情コントロールの問題」が26.4%で2番目に多かったのです。
神戸市西区の介護付き有料老人ホームで2012年に発生した、実際に行った事例をご紹介します。
当時70代の入居女性が介護職員に虐待を受けました。
女性の長女らが元職員や運営会社に損害賠償を求め、提訴。
今年に入って和解が成立した事例です。
長女が母の異変に気がついたのは入居から9ヶ月ほどが経った2011年4月頃。
身体にアザが見つかり、「班長にやられる」「ベッドから落とされた」などと母が訴えるようになったことから気がついたといいます。
とはいえ、これだけで信用したわけではなく、ビデオカメラで隠し撮りを行い、実際に現場をおさえたといいます。
男性職員が女性の顔を手で叩く場面や、女性職員が暴言を吐く様子を収めたというのです。
長女と母は長らくふたり暮らしだったようですが、母が体調を崩し、見守る必要が出てきたため、有料老人ホームへの入居を決定。
ふたりで3箇所を見学し、相談員に対応がよかったホームに決めたそう。
しかし、実態は暴力や暴行が行われてしまったのです。
母は2016年に亡くなったそうですが、長女は「あの事件がなければ、もっと穏やかに過ごすことができたのでは」と後悔しています。
このケースでは、早期に虐待を発見することができました。
しかし、実際には虐待が露見するケースばかりではないため、亡くなるまで耐え続けている人、認知症で虐待を理解できない人などもいます。
自分の親や自分自身が入居し、虐待を受けたときのケースをいろいろいと想定しておく必要があるでしょう。
実際に虐待を受けた場合にはどのように対処するればよいのでしょうか?
「暴力を目撃」「暴力を受けた」場合はどこに相談・通報?被害拡大防止マニュアル「高齢者虐待防止法」

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こうした現状を踏まえ、虐待の定義を明確にし、通報・相談の窓口が設けられています。
高齢者虐待の早期発見および防止・保護につなげるために制定されたのが「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」です。
高齢者虐待防止法は2005年にできた法律で、2006年4月から施行。
同法律では、被虐待者の定義を65歳以上とし、「身体的虐待」「介護・世話の放棄・放任」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」を虐待と定義しています。
高齢者虐待防止が目的のため、虐待を受けた場合だけでなく、虐待の現場を発見した場合は窓口となる市区町村に通報することが義務付けられているのです。
具体的にどような取り組みが行われているのでしょうか?
2017年には「介護事業者向け」「市町村職員向け」「地域住民向け」という3つの柱を見直しました。
介護施設は内部の介護スタッフだけの空間。
虐待の事実が明るみになりにくい環境だといえます。
そのため、地域住民などと積極的に交流を図ったり、地域支援事業の介護相談員派遣事業を積極的に活用することで「外部に開かれた施設」を目指すために見直されています。
市町村職員向けには、都道府県側が市町村の職員を対象に法制度などの研修を実施するほか、都道府県や市町村のホームページを活用し、通報窓口の存在を知らせる活動も取り入れています。
ホームページだけでなく、地域包括支援センターが発行する広報誌などへの掲載も検討されているそう。
地域住民向けへは、地域住民に向けたチラシを作成することで、認知度向上を図ります。
高齢者の虐待防止や通報窓口の周知が徹底されることで、虐待を早期に防ぐ狙いがあります。
「地域住民向けシンポジウム」の開催も行い、第三者が高齢者虐待への理解を深め、介入しやすい環境づくりを行っています。
高齢者虐待は認知症患者ほど受けやすい傾向があります。
介護度によっては本人が自覚できない場合や、反対に被害妄想だった、というケースも多いため、一概に虐待とは判断しにくいのが「高齢者虐待」。
介護施設、在宅、いずれの場合も故意の暴力ではなく、偶然傷つけてしまうケースも起こりえます。
だからこそ、高齢者介護の現状や、高齢者虐待についてしっかりと理解を深めることがとても大切です。